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広島地方裁判所 昭和57年(ワ)1774号 判決

原告

前田わか子

ほか二名

被告

矢口運送株式会社

主文

一  被告は、原告前田わか子に対し金四七四万八四五九円、原告前田洋子、原告前田修治に対しそれぞれ二二九万四二二九円及びこれらに対する昭和五六年三月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。

四  この判決の一項は仮に執行することができる。

事実

(申立)

一  請求の趣旨

1  被告は、原告わか子に対し金九〇五万〇九六二円、原告前田洋子、原告前田修治に対しそれぞれ金四三六万五三二一円及び右各金員に対する昭和五六年三月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

(主張)

一  請求の原因

1  事故の発生

昭和五六年三月四日午前五時四〇分ころ、広島市南区堀越一丁目五番五〇号やまとマンシヨン先県道において、前田俊昭(以下、俊昭という)の運転の原動機付自転車(以下、前田車という)に岡本義明(以下、岡本という)運転の普通貨物自動車(以下、加害車という)が追突し、俊昭は前田車とともに路上に転倒して頭部外傷の傷害を受け、前田車が破損した。

2  責任原因

被告は、加害車を保有して自己の運行の用に供していたものであり、岡本を使用していたものである。岡本は被告の事業のために加害車を運転していたところ、前記場所において、前方不注視及び速度超過により右折のため停車していた前田車に気づくのが遅れて本件事故を起こしたものである。従つて、被告は自賠法三条により本件事故による人的損害を、民法七一五条により物的損害を賠償する義務がある。

3  事故による受傷と死亡

(一) 俊昭は、本件事故後直ちに尾鍋外科病院に収容され、次いで同年三月九日県立広島病院脳外科に転院させられ、その後、同月一〇日本件事故前からあつた糖尿病治療のため同病院内科へ転科させられ、同月二六日一応同病院を退院して自宅療養をしていたが、同月二九日午後〇時四〇分ころ、心臓衰弱で死亡した。

(二)(1) 右死亡の原因については、死亡診断書によれば、直接原因心臓衰弱となつており、また解剖証明書によれば直接原因糖尿病その他の身体状況、脳挫傷、解剖の主要所見膵、肝、腎の動脈系に糖尿病を示唆する所見があり、尿にアセトンと糖を検出したとなつている。

(2) 俊昭は昭和五一年ころから糖尿病を患つていたが、同人には本件事故当時いまだ合併症はなく、同人はインシユリンを家庭において注射し、血糖量を調節しながらも元気で毎日個人営業の青果業を営み、本件事故当日も東部青果市場に仕入れに行くために自宅から前田車に乗つて前記やまとマンシヨン前に駐車しておいた軽自動車を取りに行く途中であつた。

(3) 本件事故による受傷自体で死亡することはないが、同時に糖尿病それ自体で糖尿病性昏睡に陥つて死亡することも現在ではほとんどない。糖尿病の治療にとつて主に食事療法と薬物療法が重要であるが、それを補完する意味で運動療法とともに精神的安定も重要であり、精神的苦悩が糖代謝を悪化させ、糖尿病を増悪させる場合もある。俊昭は県立広島病院脳外科から内科へ転科させられた昭和五六年三月一〇日当初から不眠、いらいらや落ちつかない感じがあり、このような本件事故による受傷からくる精神的動揺ないし苦悩が食事の摂取を不規則にし、また注射等による薬物摂取をも不規則にしたために糖尿病を増悪させ、ひいては同人を糖尿病性昏睡にもとづく心臓衰弱により死亡するに至らしめたものである。

4  損害

(一) 俊昭の損害

(1) 物損

俊昭所有の前田車(ホンダスーパーカブC五〇)は同人が本件事故の二年前に金九万五〇〇〇円で購入したものであるが、本件事故により破損の程度がはなはだしく修理不能であつた。その本件事故当時の価格を定額法によつて計算すると、営業用原動機付自転車の場合は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭四〇・三・三一大蔵省令一五号)」で残存価額は取得価額の一〇〇分の一〇、法定耐用年数二年、償却率〇・五と定められているから左の計算式により金九、五〇〇円となる。

95,000-{95,000×(1-100)×0.5×2}=9,500

(2) 人損

(イ) 治療費

俊昭は前記入院治療のため、診療報酬として尾鍋外科病院に対して金二一万九〇六〇円を、県立広島病院に対して金一万七四七〇円をそれぞれ支払つた。

(ロ) 付添費

俊昭の入院中の付添看護については尾鍋外科病院に収容された昭和五六年三月四日から県立広島病院内科に入院中の同月一六日まで一三日間、前田の妻前田わか子、同人の義兄前田政治らが交替でこれにあたつえもので、右付添費は一日三、〇〇〇円として合計金三万九〇〇〇円が相当である。

(ハ) 入院中諸雑費

俊昭は前記のとおり昭和五六年三月四日から同月二五日まで二二日間、尾鍋外科病院及び県立広島病院に入院したもので、その間の諸雑費は一日七〇〇円として合計金一万五四〇〇円が相当である。

(ニ) 休業補償及び死亡による逸失利益

俊昭は生前、個人営業で青果業を営んでいたが、昭和五五年度における東部青果市場からの仕入総価額は合計金一二八一万八二四二円であり、実収入はその二割にあたる金二五六万三六四八円(日額にして金七〇二四円、なお、小数点以下は切り捨て、以下の計算も同様とする)であつた。

〈1〉 死亡に至るまでの休業補償

俊昭は昭和五六年三月四日に本件事故により受傷してから同月二九日に死亡するまで、二六日間青果業を営むことができず、それにもとづく休業補償は本人の寄与率を九割として計算すると左のとおり金一六万四三六一円となる。

7,024×26×0.9=164,361

〈2〉 死亡による逸失利益

俊昭は昭和一二年一月一五日生れ(死亡時四四歳)で、インシユリンを家庭において注射しながらも健康人と同様の生活を営んでいたものであるから、本件事故によつて死亡しなければ、六七歳までなお二三年間は就労可能であり、その間の逸失利益は本人の寄与率を九割、生活費として三割(一家四人家族の支柱であつた)、ホフマン方式によつて中間利益をそれぞれ控除し、死亡時の現価を求めると、左の計算式によりその価額は金二四二九万九一五二円となる。

2,563,648×0.9×(1-0.3)×15,045=24,299,152

なお、同人の死亡に対する本件事故の寄与度は五割であるから、被告が賠償すべき損害は右金額の内金一二一四万九五七六円となる。

(ホ) 慰藉料

俊昭は右のとおり入院治療を受けたが、その間の同人の精神的苦痛に対する慰藉料としては二〇万円が相当である。

(二) 相続

原告わか子は俊昭の妻、原告洋子、同修治はその子であるから、右損害金は原告わか子が六四〇万七一八三円、原告洋子、同修治がそれぞれ三二〇万三五九一円を相続により取得した。

(三) 原告らの損害

(1) 葬儀費用

原告わか子は俊昭の葬儀を行ない、その経費として六四万〇六四〇円を要した。俊昭の死亡に対する本件事故の寄与度は五割であるから、被告が賠償すべき損害は三二万〇三二〇円となる。

(2) 慰藉料

原告らが一家の支柱である俊昭を失つたことによる精神的苦痛に対する慰藉料は原告わか子につき五〇〇万円原告洋子、同修治につきそれぞれ二五〇万円が相当である。死亡に対する本件事故の寄与度は五割であるから、被告が賠償すべき損害は、原告わか子につき二五〇万円、原告洋子、同修治につきそれぞれ一二五万円が相当である。

(四) 損益相殺

原告らは自賠責保険から三五万三〇八二円の支払を受けたので、法定相続分に応じて原告わか子が一七万六五四一円、原告洋子、同修治がそれぞれ八万八二七〇円の填補を受けた。そうすると、損害は原告わか子が九〇五万〇九六二円、原告洋子、同修治がそれぞれ四三六万五三二一円となる。

5 よつて、原告らは被告に対し右各損害金及びこれに対する事故の翌日である昭和五六年三月五日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する答弁及び抗弁

1  請求の原因1の内、本件事故の発生、俊昭が受傷したことは認める。

2  同2の責任原因は認める。

3  同3の内、(一)は認めるが、本件事故と死亡との因果関係は争う。

4  同4の損害(特に死亡によるもの)は争う。

5  俊昭が右折のため合図をしないで急に減速したので、訴外岡本は急制動したが衝突したのであつて、本件事故の発生につき俊昭には重大な過失がある。従つて損害額の算定においてこれを考慮すべきである。

三  抗弁に対する答弁

争う。

(証拠)

本件記録の証拠目録に記載のとおりである。

理由

一  本件事故の発生、俊昭が本件事故により頭部外傷の傷害を受けたこと。及び請求原因2の事実、同3の(一)事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、俊昭の受傷と死亡の因果関係について検討する。

1  成立に争いのない甲第三ないし第五号証、第七号証の一、二、第八、第九号証、第一一、第一二号証の各一、二、第一九号証、第二一ないし第二八号証、証人城智彦、同前田政治の各証言、原告わか子本人尋問の結果(一部)によると、次の事実が認められ、これに反する原告わか子本人尋問の結果の一部は措信できず、他にこれを覆えすに足りる証拠はない。

(一)  俊昭は、昭和五一年一〇月一三日県立広島病院内科で診察を受けて糖尿病と診断され、同月一八日から同年一二月一一日まで入院した。同病院では食事療法の後、同年一〇月二七日から薬物(インシユリン)使用を加え、症状は徐々に回復した。退院の際、医師は、家庭での食事療法及び毎朝自宅でインシユリンの注射をすることを指示し、俊昭は定期的に(二週間に一度くらい)通院した。俊昭の通院は昭和五六年二月一三日までほぼ定期的に続いていたが、同人の血糖値の自己コントロールは必ずしも良くなく、のどがかわくためかジユースの飲みすぎ、みかんの食べすぎで夏から秋にかけては血糖値が高くなるという状態が繰り返された。

(二)  昭和五六年三月四日本件事故に遭い、尾鍋外科病院で頭部外傷と診断され(意識あるも逆行性健忘症あり、頭痛吐気を訴えた。)入院した。同病院は俊昭が糖尿病につき県立広島病院で治療中とのこともあつて、同月九日、県立広島病院へ転医させた。同病院脳外科では、頭部外傷(脳挫傷あり)と診断したが、外科的治療を要しないとして同病院内科へ転科させた。

(三)  同病院内科では俊昭の糖尿病の症状は事故前と比べて大きな変化はないということであつた。しかしながら、俊昭は精神の不安定(気分的いらいら)、不眠等が顕著で、そのために事故前の温厚な性格に比し人が変つたという感じを皆が持つ程であり、入院後、無断外泊が二度あつたうえ、三月二五日家族の制止を振り切つての(母親に暴力を振つた)無断帰宅があつたので、入院の必要は未だあつたが、外来で経過観察するということにして二六日退院した。尚、俊昭は、入院中、頭痛を訴えたり意味のわからない話をしたことがあり、無断で帰宅したことを覚えていないと家族に話していた。

(四)  俊昭の家族は、医師から帰宅後安静にさせておくようにと言われており、俊昭は、退院後も稼働せず、同月二九日も朝食後、寝ていたが、昼前に母親が様子のおかしいことに気づいて医師の診察を受け、人口呼吸がなされたが、同日午後〇時四〇分ころ、糖尿病昏睡による心臓衰弱で死亡した。

(五)  糖尿病についていえば、右退院時の状態からみて、俊昭が医師の食事・薬物(インシユリン)の使用の指示に従つていれば、死亡することはあり得ない。逆に俊昭が医師の指示を守らなければ三日後に重症となり、或いは糖尿病昏睡にまで至ることもあり得る。そして、俊昭の死体解剖所見には尿からアセトン、糖が検出されており、食事・薬物使用が医師の指示どおりになされていなかったと推測される。

2  右認定事実によると、本件事故による頭部外傷が俊昭の精神的いらいら、不眠等を惹起し、その影響により自己の病状についての認識を欠き、食事・薬物使用が正規になされなかつたことにより糖尿病が増悪し、ひいては糖尿病昏睡に基づく心臓衰弱により同人を死亡するに至らせたものと推認するのが相当である。

そして、右認定の諸事情に照らすと、本件事故の俊昭の死亡に対する寄与度は五割とみるのが相当である。

3  そうすると、被告は本件事故による俊昭、原告らの損害を(死亡に基づくものは右寄与度の限度で)賠償する義務がある。

三  損害

1  俊昭の損害

(一)  物損

原告わか子本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一四号証、右尋問の結果、弁論の全趣旨によると、前田車は本件事故で破損したこと、同車は俊昭が本件事故の二、三年前に九万円から一〇万円までの価額で購入したこと、昭和五六年五月一日における同種の車の販売価額は一〇万五〇〇〇円であることが認められ、これに反する証拠はない。これらの事実に照らすと、前田車の事故当時の価額は、九五〇〇円を下らないものと認めるのが相当である。

(二)  治療費

成立に争いのない甲第六、第一〇号証、原告わか子本人尋問の結果によると、俊昭は頭部外傷の治療費として尾鍋外科病院に二一万九〇六〇円、県立広島病院に一万七四七〇円を要したことが認められ、これに反する証拠はない。従つて、治療費は二三万六五三〇円となる。

(三)  入院付添費

成立に争いのない甲第九号証、証人古谷美佐子、同前田政治の各証言、原告わか子本人尋問の結果によると、俊昭の尾鍋外科病院、県立広島病院での入院期間中妻のわか子や親族らが交替で付添つたこと、但し三月一七日以降は医師から付添不要と言われたことが認められ、これに反する証拠はない。尚、同月一一日以降は糖尿病の治療がなされたが、前記二の認定事実に照らすと入院の必要性は本件事故によつて生じたものと認められるから、相当因果関係があると認めるのが相当である。そして、家族による付添の費用は一日につき三〇〇〇円と認めるのが相当であるから事故の日から三月一六日までの一三日間では三万九〇〇〇円となる。

(四)  入院雑費

入院期間中に一日につき七〇〇円の雑費を要することは容易に推察されるところであるから、三月二五日までの二二日間では一万五四〇〇円となる。

(五)  休業損害

(1) 俊昭は前認定のしおり本件事故の日から死亡した三月二九日まで稼働できなかつたと認められる(三月一一日以降は糖尿病の治療が主であるが、事故により入院及び自宅休養の必要性が生じたものであるから、この間の休業は本件事故によるものである。)。

(2) 証人前田政治の証言により真正に成立したと認められる甲第一五号証、証人前田政治、同古谷美佐子、同山耕二の各証言、原告わか子本人尋問の結果によると、俊昭は二〇年くらい前から食料品店を営なみ、青果、乾物等を販売していたこと、青果については俊昭が毎朝市場に仕入れに行つており、本件事故の日もそのために駐車場へ行く途中であつたこと、営業は店頭販売のみでなく、車で団地等に販売に行つており、妻の原告わか子がそれを手伝い、店の方は俊昭の妹などが手伝つていたこと、青果は広島東部青果食料品協同組合から仕入れており、昭和五五年一月から一二月までの仕入れ総額は一二八一万八二四二円であること、俊昭はそれを二割くらいの利益を得るようにして販売していたことが認められ、これに反する証拠はない。

(3) 右認定事実によると、俊昭は食料品販売により乾物等を含めると右仕入れ額の二割弱にあたる二五六万円の年間収入を得ていたものと認めるのが相当であり、また右営業における俊昭の寄与率は八割とみるのが相当である。そうすると俊昭の実収入は年間二〇四万八〇〇〇円(一日五六一〇円)となるから、二六日間の休業損害は一四万五八六〇円となる。

(六)  逸失利益

(1) 俊昭は昭和一二年一月一五日生まれであり(真正な公文書と推定される訴状添付の戸籍謄本により認める。)、前記二の認定に照らすと糖尿病があるとはいえ医師の指示に従つた治療をすれば通常に生存し稼働できるものと推認されるから、六七歳まで尚二三年間稼働が可能であつたものと推認される。

(2) 原告わか子本人尋問の結果及び右戸籍謄本によると、俊昭は妻(原告わか子)、子供二人(原告洋子、同修治)の四人家族であつたことが認められるから、右収入に占める俊昭の生活費は三割とみるのが相当である。

(3) 従つて、俊昭が生存していた場合の得べかりし利益を前記の年収、営業への寄与率を基礎に事故の死亡への寄与度により、かつ生活費を控除したうえホフマン式によつて中間利息を控除して現価を求めると一〇七八万四二五六円となる。

2,560,000×0.8×0.5×(1-0.3)×15.045=10,784,256

(七) 過失相殺

(1)  成立に争いのない甲第二〇号証、証人岡本義明、同山耕二の各証言によると、本件事故の現場は二車線(加害車の進行車線は幅三・五メートルでその外側に路側帯が一・二五メートル。反対車線は幅三・七メートルで路側帯が一・七メートル)のアスフアルト舗装された平坦な道路で見通しは良いこと、訴外岡本義明は加害車を時速約五〇ないし六〇キロメートル(同所の制限時速は四〇キロメートル)で前照灯を点灯して進行中、左前方の路側帯を示す白線付近を同一方向に進行する俊昭運転の前田車を認めたが、その動静に十分な注意を払わないまま同一速度で進行したため、前田車が右斜めに道路を横断しようとしたのに気づくのが遅れ、急制動するとともに右転把したが加害車前部が前田車に衝突したこと、俊昭の後方に対する安全確認も十分でなかつたとみられることが認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(2)  右事実によると、本件事故の発生には俊昭にもその一因があると認められるから、事故の態様等を斟酌して俊昭の本件事故による損害の内、約五割を被告に負担させるのが相当である。従つて、右(一)ないし(五)につき過失相殺をし、俊昭の損害は五六一万円と認めるのが相当である。

(八) 慰藉料

俊昭が本件事故による受傷によつて肉体的精神的苦痛を受けたであろうとは容易に推察し得るところであり、傷害の内容、程度、事故の原因等の事情を斟酌すると、俊昭を慰藉するには一二万円をもつて相当と認める。

(九) 損益相殺、相続

(1)  右のとおり、俊昭の損害は五七三万円となるが、自賠責保険から三五万三〇八二円が支払われたことは原告らの自認するところである(弁論の全趣旨によると、これは傷害に対する補償であると認められる。)から、これを控除すると、損害は五三七万六九一八円となる。

(2)  俊昭が死亡したことは当事者間に争いがなく、前記のとおりその家族は妻(原告わか子)、子供(原告洋子、同修治)であるから、俊昭の損害賠償請求債権は原告わか子が二分の一、原告洋子、同修治がそれぞれ四分の一の割合で相続したものと認められる。そうすると、右損害は原告わか子が二六八万八四五九円、原告洋子、同修治がそれぞれ一三四万四二二九円を相続により取得したことになる。

2  原告らの損害

(一)  葬儀費用

原告わか子本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一六号証の一、二、第一七、第一八号証、右尋問の結果によると、原告わか子は妻として俊昭の葬儀を行ない、その費用として六四万〇六四〇円を要したことが認められ、これに反する証拠はない。そして、本件事故の死亡への寄与度、本件事故の発生についての俊昭の過失を考慮すると、被告に負担させるのは一六万円と認めるのが相当である。

(二)  慰藉料

俊昭の死亡により、原告わか子は妻として、原告洋子、同修治は子として著しい精神的苦痛を受けたであろうことは容易に推察し得るところであり、、事故の死亡への寄与後、事故発生についての俊昭の過失等の事情を考慮すると、これを慰藉するには原告わか子につき一九〇万円、原告洋子、同修治につきそれぞれ九五万円をもつて相当と認める。

3  そうすると、本件事故による損害は原告わか子につき四七四万八四五九円、原告洋子、同修治につきそれぞれ二二九万四二二九円になる。

四  以上のとおりであるから、被告は損害金として原告わか子に対し四七四万八四五九円、原告洋子、同修治に対しそれぞれ二二九万四二二九円及びこれらに対する事故の翌日である昭和五六年三月五日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて、原告らの本訴請求は右認定の限度で理由があるからこれを認容してその余を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷岡武教)

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